「沙織、もう少し飲める?」
僕の声は、自分でも驚くほど冷徹に響いた。
ホテルのスイートルーム。
薄暗い照明の下、僕の恋人・沙織は、困惑した顔で僕と親友の瀬戸を見比べている。
僕は、沙織のグラスに強い酒をなみなみと注いだ。
「雄大……もう無理だよ。それに、どうして瀬戸君までここに……?」
「いいから。僕の頼みが聞けないのかい?」
僕は沙織の背中を、隣に座る瀬戸の方へと強く押しやった。
「瀬戸、準備はいいか。……こいつは今日から、君の好きにしていい」
僕の言葉に、沙織の顔から血の気が引いていく。
瀬戸はニヤリと下品な笑みを浮かべ、値踏みするように沙織の体をなぞった。
「本当にいいんだな、雄大。後で泣いて謝っても返さないぜ」
「ああ。……僕の目の前で、始めてくれ」
沙織が悲鳴を上げる間もなく、瀬戸の大きな手が彼女の細い手首を掴んだ。
「嫌! 雄大、助けて! 何してるの!?」
沙織の絶望に満ちた瞳が僕を射抜く。
だが、その恐怖に歪んだ表情こそが、僕が何よりも見たかったものだ。
僕は、部屋の隅にある椅子に深く腰掛け、足を組んだ。
一番大切なものを、自分の手で地獄へ突き落とす。
その罪悪感が、僕の脳内を甘美な痺れで満たしていく。
瀬戸は一切の容赦がなかった。
彼は沙織を乱暴にソファへと押し倒す。
「やめて! 離して!」
抵抗する沙織。
しかし、瀬戸の力に抗えるはずもない。
彼女が大切に着ていた清楚なブラウスのボタンが、無残な音を立てて弾け飛び、床を転がった。
僕は部屋の隅で、そのすべてを凝視している。
僕しか知らないはずの彼女の白い肌が、瀬戸の節くれだった大きな手に掴まれ、赤く跡がついていく。
「雄大……見てないで、助けて……っ!」
沙織が泣き叫び、僕に助けを求めて手を伸ばす。
その指先が空を切り、僕に届かない。
僕は動かない。
ただ、膝の上で組んだ自分の手が、興奮で激しく震えているのを抑えるのが精一杯だった。
「ほら、沙織。雄大もしっかり見てるぜ。お前がどんな顔で鳴くのか、楽しみにしてるんだよ」
瀬戸の卑俗な言葉とともに、彼の唇が沙織の首筋に深く吸い付く。
「っ……あ……っ!」
沙織の口から、拒絶とは異なる、抗えない生理的な吐息が漏れた。
その瞬間、僕の脳内で何かが弾けた。
瀬戸はさらに強引に、沙織の柔らかな部分を蹂躙していく。
沙織の瞳からは涙が溢れ、絶望に濡れているが、それとは裏腹に、彼女の体は男の暴力的な愛撫に熱を帯び始めていた。
「嫌……こんなの、嫌……っ」
首を振りながらも、瀬戸に組み敷かれ、翻弄される彼女。
僕の目の前で、僕の所有物である彼女が、別の男の匂いに塗り替えられていく。
瀬戸が彼女の奥深くに指を沈め、容赦なくその中を掻き回すたびに、沙織は背中を反らせ、僕の知らない声を上げた。
「見てるか、雄大。お前の女、こんなに濡れてるぞ」
瀬戸が勝ち誇ったように笑い、ついに最終的な一撃を彼女に突き刺した。
「あああああぁぁっ!」
沙織の絶叫。
それは苦痛なのか、それとも狂おしい快楽なのか。
激しく揺れるソファ、重なり合う肉体と肉体がぶつかる生々しい音。
それらすべてが、特等席に座る僕の目と耳に突き刺さる。
彼女が瀬戸の背中に爪を立て、恍惚とも絶望ともつかない表情で天を仰いだ瞬間、僕は椅子から崩れ落ちそうになるほどの絶頂を感じていた。
行為が終わり、部屋には重苦しい沈黙と、事の後の匂いが充満していた。
沙織はシーツにくるまり、焦点の合わない瞳で虚空を見つめている。
彼女の心は、今この瞬間、完全に壊れたのだ。
僕という避難所を失い、他人に蹂躙されたことで。
瀬戸は満足げに煙草をくゆらし、僕に視線を送った。
「……最高だったぜ、雄大。お前、本当にイカれてるな」
「ああ、知ってるよ」
僕は立ち上がり、力なく横たわる沙織の元へ歩み寄った。
彼女の頬を撫でるが、その肌にはもう、僕に対する愛情の温度は残っていない。
そこにあるのは、底知れない軽蔑と、深い絶望だけだ。
これでもう、彼女は「僕だけの綺麗な沙織」ではなくなった。
泥にまみれ、汚され、僕の手から永遠に失われたのだ。
僕は彼女の耳元で、優しく、そして残酷に囁いた。
「愛してるよ、沙織。……これで君は、一生僕のことを忘れられないね」
窓の外では、何も知らない夜の街が、ただ静かに輝いていた。
