深夜2時。
隣で寝息を立てる夫の背中を確認し、美咲はスマホの画面を一番暗くして、ある掲示板を開いた。
36歳。結婚して10年。
一度も「果てる」という感覚を知らないまま、女としての賞味期限が切れていくような恐怖に、彼女は耐えられなかった。
夫との行為は、いつも10分程度の義務的なものだ。
「よかった?」
と聞かれるたびに、嘘の笑顔で「うん」と答える。
そのたびに心の中で何かが死んでいく音がした。
【投稿タイトル:本気でイかせてくれる方を探しています(新宿)】
「36歳の人妻です。恥ずかしい告白ですが、人生で一度もイったことがありません。夫との行為もただ苦痛なだけで、自分の体が欠陥品のように思えて悲しいです。テクニックに自信のある、大人の男性。私の体を壊すくらい開発して、本当の快感を教えてくれませんか?」
投稿ボタンを押す指が震えた。
罪悪感よりも、自分の体が「女」であることを証明したい渇望が勝っていた。
翌朝、通知欄は溢れかえっていた。
下品な誘い文句や、自分の性器の写真を送りつけてくる男たちが並ぶ中、一通のメッセージが美咲の目を止めた。
差出人:健二
「はじめまして。文章から、切実な思いが伝わりました。女性をイかせるのは力ではなく、神経との対話です。美咲さんが今まで感じられなかったのは、あなたのせいではなく、相手があなたの『スイッチ』を知らなかっただけです。僕に、あなたの体の地図を完成させてもらえませんか?」
他の男たちとは違う、理知的で自信に満ちた言葉。美咲は吸い込まれるように返信した。
美咲:
「メッセージありがとうございます。本当に、私みたいな『冷え切った体』でも、変われるのでしょうか。怖さと期待で、心臓が痛いです」
健二:
「大丈夫ですよ。当日は、あなたが『もう勘弁して』と言うまで、指一本で何度も果てさせます。新宿のホテルで、お会いしましょう」
新宿の高級ホテルの一室。
シャワーを浴び、バスタオル一枚でベッドに横たわる美咲に対し、健二は一切焦りを見せなかった。
「まずは『外側』から始めましょう。美咲さん、ここは夫に触られたことはありますか?」
健二の指先が、太ももの付け根、鼠径部(そけいぶ)のリンパに沿って円を描くように滑る。
「……っ、いえ、……そんなところ、誰も……っ」
「ここが硬いと、快感は脳まで届かない。……ほら、少しずつ温まってきた」
健二の指は、まるでピアノの鍵盤を叩くような軽やかさで、美咲の「そこ」の周囲を包囲するように愛撫し始めた。
やがて、人差し指の腹が、まだ硬く閉じているクリトリスの「皮」の上に乗る。
「……あ、……ぁっ」
「まだですよ。今はまだ、表面だけ」
健二は指を離さず、一定のリズムで優しく、しかし執拗に円を描き続ける。
摩擦で生じる微かな熱が、美咲の脳に「待たされる焦れったさ」を植え付けた。
美咲の秘部が自身の蜜で十分に潤ったのを確認すると、健二はようやく中指の先端を、クリトリスの「芯」へと滑り込ませた。
「……ひゃっ! ……あ、あぁぁっ!」
「ここですね。……美咲さんのスイッチは」
健二は指を左右に小刻みに、それでいて一箇所を深く抉るように動かした。
「ブラッシング」と呼ばれるその手法は、粘膜を傷つけないギリギリの圧で、神経の束を直接掻き立てる。
美咲は夫との行為では感じたことのない、電気を流されたような痺れに襲われた。
「やだ、……これ、……おかしくなる、……イっちゃう!」
「いいですよ。36年分の想いを、全部指先にぶつけて」
健二の親指が、上からクリトリスを固定し、中指が下から粘膜を弾き上げる。
上下からの執拗な挟み撃ちに、美咲の腰は激しく跳ねた。
視界が真っ白に弾け、喉の奥から聞いたこともない悲鳴が漏れる。
美咲は全身を弓なりに反らせ、最初の一回を、人生で最も深く、激しく果ててしまった。
「……一回で、こんなに濡れちゃいましたね。でも、まだ本番はこれからです」
一息つく間もなく、健二の指が二本、美咲の奥深くへと滑り込んだ。
果てた直後の過敏な粘膜に、男の逞しい指が侵入する。
「あ、……あぁっ! ……もう、そこは、……っ!」
健二の指は、膣口から5センチほどの天井部分にある、少しザラついた場所――Gスポットを捉えた。
指を「おいで、おいで」とするように、内側から外側へ向かって力強く、リズミカルに掻き出す。
「ぁ、……っ、ん、……そこ、……そこ凄い、……またイく!」
「ほら、中がギュウギュウに締まって、指を離してくれない。……美咲さん、本当はこんなに感じやすい体だったんですよ」
指が奥を突くたびに、美咲は何度も、何度も絶頂の波に飲み込まれた。
五回、十回……。
健二が指を抜くたびに、溜まっていた蜜が「ジュボッ」と卑湿な音を立てて溢れ出し、シーツに大きな染みを作っていく。
「十五回目。……さあ、最後は一番大きいのを、一緒に迎えましょう」
健二が指の動きをさらに速め、美咲のクリトリスとGスポットを同時に、かつ別々のリズムで攻め立てた。
「あ、あぁっ! ……もう無理、……イっちゃう、イッちゃうぅぅ!!」
美咲は快感の過負荷で白目を剥き、健二の腕を爪が食い込むほど強く掴んだまま、波打つような痙攣と共に、今日一番の深さで果て続けた。
深夜。
健二が去った後の静かな部屋で、美咲は一人、全身の力が抜けたまま横たわっていた。
股間はまだ熱く疼き、自分の中から溢れ出たものが脚を伝って冷えていく。
ふらふらと立ち上がり、鏡の前に立つ。
そこには、三時間前までの「良妻賢母」の美咲はいなかった。
瞳は潤み、肌は火照り、唇は誰かに貪られた後のように腫れ上がっている。
「……私、……イけるんだ」
美咲は自分の指で、健二の感触が残る場所をそっとなぞった。
その瞬間、また奥が「キュン」と締め付けられ、熱いものが溢れ出す。
彼女は、もう夫との冷めた夜には戻れないことを、確信していた。
彼女を「本当の女」にしたのは、夫ではなく、名前も知らない出会い系の男の「指」だった。
