会ったときは気づかなかったけど、その娘はラベンダーの香りがした。
どうせお金目当てだろうと、頭の片隅で考えていたけれど、その香りを嗅いだときにその邪念は消えた。
ホテルは街の中心から少し外れたところで、彼女が指示した場所だった。
膝上の紺のスカートから覗く太ももはまだ女子高生のようにあどけないのに、首筋からほほにかけての肉付きはなまめかしい大人のそれだった。
もう何度も来ているホテルだったらしく、彼女はなれた様子でコンドームを取り出す。
「ごめんね」
油絵の具の白で潰したみたいな白目で上目使いをする彼女の唇は、目元のはっきりした印象とは対照的に暗く薄い。
夕暮れのホテルの光線の中では、それが江戸時代のお歯黒のような怪しい色気を放つ。
彼女は僕のズボンをさっと降ろすと、一瞬遠い目をして、鼻腔の奥まで溜め込むように深く男根のにおいを吸い込んだ。
「オッケー」
彼女はたばこを持つように男根を人差し指と中指で挟み、敏感な裏スジの真ん中をわざと少し外してさすりはじめた。
あえて焦らすように、優しくゆっくりとした手付き。
そのまま僕の胸に頭を押しつけ、ベッドに向けて後ずさりさせ、僕がベッドに腰かけると体勢を入れ替えて僕の顔を膝で蹴飛ばすようにして被さってきた。
スカートがめくれ、黒いシースルーのランジェリーが目の前にきた。
太ももに舌を這わせると、彼女はふぅ、と息を漏らした。
「お尻はダメ。お尻は絶対ダメ」
独り言のように彼女は呟く。
「しないよ」
「分かってる。冗談」
彼女はグッと男根を握りこみ、先端に軽くキスをした。
ランジェリーをずらすと、少し毛深い女性器の上に花弁のたるんだアナルが見えた。
男にだいぶ使われたらしい。
「早く濡らしてよ」
彼女に急かされ、僕は女性器の先にあるかわいらしい膨らみに舌を当てた。
少し甘酸っぱい女の子においの中に、微かなラベンダーが香る。
僕の怒張した男根に、彼女は優しくコンドームを被せた。
「もう少し濡れてからね…」
男根の根本をくすぐるように舌を這わせながら、彼女は小さく呟いた。
だがもう十分すぎるくらい、女性器は湿っていた。
「どこが好き?」
「今なめてるとこ」
「嘘。もっといい場所知ってるくせに」
「いじわる」
彼女はスカートをたくし上げ、僕の鼻頭にアナルを押し付けるように座った。
彼女が上着を脱ぐ音が聞こえ、伸ばした僕の腕を彼女は自分の乳房に導いた。
「器用な男の人、好き」
フフッと笑みをこぼした彼女は、乳首を探られたときにはじめて喘ぎ声を漏らした。
「んん、ねぇ、そうじゃなくて。もう少し……うん」
彼女はもはや完全に僕の顔に馬乗りになって、自ら腰を振っていた。
「あぁ、いい。もっと続けて」
お互い本名も知らないのに、こんな風に動物的に交わるなんて。
そんな僕の雑念も、彼女がいきなり体をねじって挿入してきた瞬間に吹き飛んだ。
「ああああ!」
彼女の突然の大声に、僕の紳士は消えた。
腰をひっつかみ、しゃにむに男根を突き上げる。
「あぁ、いい!そこ、そこ!」
髪を振り乱し、乳房を揺らして彼女は喘いだ。
服の上から見るより、ずっと張りがあって美しいおっぱいだった。
僕は片方の腕で下からそのおっぱいをこねあげて、より一層激しく腰を振った。
「ああ!うう、ぅ……」
彼女は首をガクッと落として僕の上にもたれかかってきた。
熱く柔らかな肌の感触が心地よい。
僕は腰の動きを止めず、耳元で叫ぶ彼女の嬌声に酔いしれる。
「いい、もっと、もっと」
「あっ、あっ、あっ……」
何度いかせたか分からない、気がつくと僕は彼女を完全に裸にして、薄汚れた床の上に押し付けていた。
少し乱暴すぎたな。
僕はそっと体を離し、彼女がつけてくれたコンドームを外した。
「一旦、シャワー浴びようか?」
「ううん。もう大丈夫」
体を起こした彼女の肌は、ほこりと布の跡でいっぱいになっていた。
「ごめんね。つい夢中になっちゃって。君が素敵……」
「ねぇ、知ってる?」
僕の話を遮って彼女は言う。
「ラベンダーって、寒さにはとっても強いの。でも、水をあげすぎると腐って枯れちゃうの」
そう言って彼女はさっさと服を着てしまった。
ホテルから出て別れるまで、僕は結局一言も彼女に話しかけられなかった。
微かなラベンダーの香りを残り香に、彼女は夜の中に消えていった。